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記憶の賃貸 — Epoch SF短編小説の挿絵
SF近未来都市・テクノロジー・格差社会

記憶の賃貸

 支払い期日まで、あと十七時間。


 宮本ハルトは薄暗い部屋のなかでスマートフォンの画面を見つめていた。〈メモリーリース〉のアプリが表示する残高は、ゼロだった。


 口座が空になったのは三日前だ。今月の配送仕事は雨続きで件数が伸びず、緊急の車両修理代も重なった。それでも、ハルトはメモリーリースの引き落とし日だけはどうにかしようと思っていた。どうにか、できなかった。


 アプリの画面には、妻・綾との記憶がフォルダごとに並んでいる。「初めてのデート——代官山」「結婚式の朝」「退院の日の夕暮れ」「最後の夏——逗子の海」。三年前、綾が事故で逝ってから、ハルトはこのサービスに月八千円を払い続けてきた。それが〈記憶を保持する〉ということの値段だった。


 正確には、記憶はずっとハルトの頭の中にあったわけではない。


 ニューラル・ストレージ技術——NSTと呼ばれるその仕組みは、二〇四〇年代に急速に普及した。神経インターフェースを通じて、長期記憶を外部サーバーへと「書き出す」ことができる。容量の大きな記憶、たとえば感情の密度が高い体験は、脳のストレージを圧迫する。だからサービス企業はこう言う——「大切な思い出を、安全なクラウドへ」。

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