遺伝子に眠る罪人の娘
七音の体の中に、知らない女の声がある。
生まれたときから、それはそこにあった。記憶というより感情の残滓に近い。声の主は恐怖を感じていた。誰かに追われるような、何かを隠しているような——薄い膜一枚を隔てた向こうから、その感情が滲み出てくる。
「遺伝子記憶汚染者」。
ナギが初めてその言葉を知ったのは七歳のときだ。テレビの中で、スーツ姿のアナウンサーが淡々と読み上げていた。前日、東京レイヤーの第二層で、汚染者の男が公共交通機関から強制退去させられた事件について。
「汚染者は第一層への立ち入りを禁止するべきです」
画面の中の識者が断言していた。その言葉がナギの耳に刺さったのは、彼女の手の甲に刻まれたIDタグが「M-023」で始まるコードを持っていたからだ。汚染者登録コード——宮島ハルカの曾孫であるナギに、生まれながらに付与された烙印だ。
「あなたは何も悪いことをしていない」と母は言った。「ただ、その人の子孫として生まれてきただけ」
その言葉は慰めのつもりだったのだろう。しかしナギには、何かを隠すような響きがあった。
ナギの曾祖母は罪人だ——そう国が言った。十七年間、ナギはその意味を直視することを避けてきた。
続きは会員限定
月額会員登録で全作品の全文とバックナンバーが読み放題。
登録済みの方は同じメールアドレスで全文を表示できます。
※ AI生成フィクションです。いつでもキャンセル可能。
他の作品も読む
SFその痛みは、私が捨てた
他人の痛みには、匂いがある。 佐久間澪はそう思っている。もちろん比喩だ。痛覚は嗅覚ではない。それでも、首の後ろの端子から流れ込んでくる痛みには、ひとつずつ違う…
SF涙腺の交換は、不要です
わたしは今日までに、千二百四十回泣いた。 悲しかったことは、一度もない。 わたしの型式名は鳴女(なきめ)シリーズ七号機。葬儀の場で、遺族に代わって泣く「代泣…
SF異常なし、と私は書いた
エレベーターは、四十二階の次に四十四階へ止まる。 アマツ第三塔で暮らす十二万人のうち、それを不思議に思う者はもういない。四が二つ並ぶ階は縁起が悪いから欠番にし…
