異常なし、と私は書いた
エレベーターは、四十二階の次に四十四階へ止まる。
アマツ第三塔で暮らす十二万人のうち、それを不思議に思う者はもういない。四が二つ並ぶ階は縁起が悪いから欠番にした。竣工時の資料にはそう書かれているし、誰もがそう信じている。
灰島ツグミも、先週まではそう信じていた。
彼女は昇降機保守技師だ。高さ八百メートルの塔の壁の中を走る、二百十六本のエレベーターの面倒を見ている。もっとも、人間の出番はほとんどない。故障は起きる前に予兆として検出され、夜のあいだに自動修復される。都市管理OS〈ウカノメ〉が、そういう塔としてこの街を三十年間動かしてきた。
ツグミの仕事は、直っていることを確認して、報告書に「異常なし」と書くことだけだった。退屈で、静かで、正しい仕事。塔の外の世界を、彼女はほとんど知らない。生まれたときから、世界はこの塔の中に全部あった。
異変は、巻上機の走行ログの中にいた。
第七系統のかご——エレベーターの箱のことだ——が四十二階から四十四階へ移動する時間だけ、他の系統より一・八秒長い。速度から逆算すると、約四メートル。ちょうど、一フロアぶんの高さだった。
欠番の階に、床がある。
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