雲の上にも、朝はなかった
ソウは、太陽を一度も見たことがない。
垂直都市〈アクシス〉の底層〈ベース〉では、朝は買うものだった。日照クレジット——通称ルクス。一ルクスで、十分間だけ人工の朝が灯る。上の階層から配給される光の、そのまた余り。底層に届くころには、薄められた水のように頼りない。
それでも人々は、わずかなルクスを握りしめて並ぶ。光のない一日は、心を錆びつかせるからだ。
わたしは光を運ぶ。ライトランナー。上層で余ったルクスを、許可なく下へ流す密輸人だ。配給管にしがみつき、層と層のあいだを縫って、こぼれた光を拾い集める。違法だ。捕まれば底層からも追われる。けれど、これしか知らない。
「姉ちゃん、きょうは朝、買える?」
ソウが毛布から顔を出す。八歳。生まれたときから肺が弱い。底層の濁った空気が、この子の時間を少しずつ削っていく。医者は言った。光のある場所へ移せれば、と。その光が、いちばん高いのに。
「買えるよ。とびきりのやつ」
嘘だった。手元には三ルクスしかない。三十分の朝。先月の稼ぎは、ソウの薬でほとんど消えた。だが今日だけは、本物を見せてやりたかった。
ソウは画用紙に、いつも太陽を描く。けれど色は決まって灰色だ。見たことがないから、灰色しか塗れない。
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