あまねく、おやすみ
眠ってください、と客は言わない。眠るのはわたしの仕事だ。
午後八時、沈床区の寝床に横たわる。首の後ろへ梔子を当てると、ひやりと冷たい。神経枕がわたしと、顔も知らない誰かをつなぐ。今夜の客はアマネ。十一日連続の指名だった。
縹市は、上と下に分かれている。天蓋区の人々は陽を浴び、眠らずに働く。眠りは時間を食う。一日のうち六時間を、彼らはもう手放したがらない。だから外注する。眠れない夜を、眠れる誰かへ預ける。
わたしのような者を、代理睡眠士と呼ぶ。客の疲れを引き受け、代わりに眠る。客は起き続け、わたしは一日十六時間を眠る。沈床区には陽が射さない。眠るには、ちょうどいい街だ。
梔子が温まる。意識が、ふっと底へ落ちる。
落ちながら、いつもの旋律が聴こえた。
子守唄だ。だれが歌っているのか、わからない。低く、かすれて、たどたどしい。アマネの夜にだけ、それは流れる。最初は機械の雑音だと思った。けれど十一夜、同じ節が同じ場所で繰り返される。雑音は、こんなにやさしくない。
わたしは眠りの底で、その唄を聴き続けた。
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