地球は、また生きられる
潮が引いた朝、ミオはまた信号を受け取った。
モールス符号。それも三十年前に使われていた古い変換規格だ。受信機のスピーカーから流れる断続音を聞いて、彼女の指が自然と紙の上を動いた。
「――・・・・――・・・――」
デコードすると、三文字が現れた。
「ケンジ」
藤原美緒、四十七歳。残島(のこりしま)でただひとりの無線技術者にして、この孤島の管理人。かつては本土の研究機関で働いていたが、二〇五七年の大水没で施設ごと地位を失った。同僚を失い、恋人を失い、故郷を失った。
失ったものの中に、橘賢二がいた。
ケンジは四つ年上の優秀なAI研究者だった。水没の三日前、彼は「旧東京データセンターに研究データのバックアップに行く」と言って島を離れた。そのまま帰らなかった。深海倉庫γ(ガンマ)――海底に沈んだ施設の中で、どれほど孤独だっただろうと、ミオは三十年間考え続けてきた。
「幻聴かもしれない」とつぶやいて、受信機を叩く。信号はまだ鳴っていた。規則的に、まるで心臓の音のように。
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