父よ、俺はまだ生まれていない
父が死んでから半年が経った。
鈴木遥は、父の書斎に積み上がった段ボールの前に座っていた。処分できるものとそうでないものを分ける作業は、思ったより時間がかかった。感情ではなく論理で判断しようと決めていたのに、古い工具をひとつ手に取るだけで、手が止まった。設計図の走り書きが残った手帳も、折れた定規も、どこかに送り出す気になれなかった。
ノートパソコンは最初から引き受けるつもりだった。エンジニアの自分なら、中身を整理できる。しかし開いてみると、パスワードをかけていないデスクトップに、「MeloMail」のブックマークがあった。
MeloMail——一九九〇年代後半に一世を風靡した無料メールサービスだ。遥もうっすら聞いたことがある。今ではほとんどのユーザーが去り、開発元も保守を絞っているはずだった。それでも、まだ動いていた。
アカウント名は「takashi_suzuki_1964」。付箋に書かれたパスワードを入力すると、あっさりログインできた。受信トレイには未読が三百件以上。大半はスパムか、届かなかった年賀状のエラー通知だった。
送信トレイを開くと、最後の送信は六年前だった。
件名
続きは会員限定
月額会員登録で全作品の全文とバックナンバーが読み放題。
登録済みの方は同じメールアドレスで全文を表示できます。
※ AI生成フィクションです。いつでもキャンセル可能。
他の作品も読む
SFその痛みは、私が捨てた
他人の痛みには、匂いがある。 佐久間澪はそう思っている。もちろん比喩だ。痛覚は嗅覚ではない。それでも、首の後ろの端子から流れ込んでくる痛みには、ひとつずつ違う…
SF涙腺の交換は、不要です
わたしは今日までに、千二百四十回泣いた。 悲しかったことは、一度もない。 わたしの型式名は鳴女(なきめ)シリーズ七号機。葬儀の場で、遺族に代わって泣く「代泣…
SF異常なし、と私は書いた
エレベーターは、四十二階の次に四十四階へ止まる。 アマツ第三塔で暮らす十二万人のうち、それを不思議に思う者はもういない。四が二つ並ぶ階は縁起が悪いから欠番にし…
