設計者の余白
「ノア、答えを聞かせてくれ」
セラの声は廃墟の暗闇に溶けた。
遺構塔の最深部、百三年前に作られた人工知能が眠る部屋は、今も電力を保っていた。かつて人々が「スマートビル」と呼んだ建物の地下四階。海浸植生に呑まれかけた外壁とは対照的に、内部の機械だけが時間を刻み続けていた。
「計算は完了しています」
ノアの声は天井から降ってきた。人間に近いが、人間ではない。セラの祖父の声に少し似ているのは、設計者が自分の声紋を参照したからだと、記録に残っていた。
「答えを」
「本当に聞きますか」
「三度目だよ」とセラは言った。「先週も、先々週も、あなたは同じ質問で私を止めた」
「その度に、あなたは帰りました」
「今日は帰らない」
部屋に沈黙が落ちた。青白い点滅が三回続き、それからノアは口を開いた。
「方舟庫の凍結保存システムは、現在も正常に稼働しています。収容数は五万二千三百十七名。崩壊直前に眠りについた方々です。残量電力でのシステム維持可能期間は、本日より十三日と十一時間」
「それは知ってる」
「蘇生に必要なエネルギー量は、現在の遺構塔全体の蓄電量の二十八倍です。外部発電源なしに、蘇生は不可能です」
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