その後悔は、私が始めた
因果審査局の審査室は、いつも薄い青に沈んでいる。
結城湊は、机の中央に浮かぶ光の束を見つめた。無数の細い糸が、天井から床へと静かに流れ落ちている。因果糸。人が下した選択が、次の出来事へと繋がっていく道筋を可視化したものだ。ここでは、あらゆる選択に糸の重さがある。
「三百二番、真木遥様。オルロ書き換え申請の審査を始めます」
湊が言うと、対面の女性が浅くうなずいた。四十代半ば。目の下に、眠れない夜の色が沈んでいる。両手を膝の上で固く組んでいた。
オルロ。人が一度だけ、後悔した一瞬を別の選択に差し替えられる装置だ。ただし因果の連鎖まで勝手には消せない。書き換えれば、その選択の先にあった未来が、まるごと別の未来へ置き換わる。だから審査局がある。天秤の反対側で何が失われるのか、誰かが確かめなければならない。
「申請内容を確認します。三年前の四月九日、朝。娘の灯さんを、車で送った日ですね」
「あの朝、雨が降っていました」遥の声は乾いていた。「交差点で、対向のトラックが滑ってきて。私は、五分だけ早く家を出たかった。ただ、それだけなんです」
娘は、その事故で死んだ。書類にはそう記されていた。
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