忘却技師は、自分を看取った
メモリアの最下層は、いつも雪の降る音がした。
実際には音などしない。減衰の進んだ意識を可視化すると、粒子が剥がれ落ちる様子が、是永の網膜にそう変換されて届くだけだ。彼の仕事は、その雪を看取ることだった。
「忘却技師の是永です」
彼は今日も、消えかけた死者にそう名乗る。統合想起公社の規定では、減衰末期の意識には必ず生者が立ち会い、最後の言葉をログに残すことになっている。
この時代、人は死ぬと追想領域メモリアにアップロードされる。肉体を失っても、意識は層となって保管される。けれど、保管には容量が要る。生者が想起アクセスする限り、その層は灯りつづける。誰からも思い出されなくなった死者は、容量回収のため、静かに削られていく。覚えている人がいなくなれば、死者は二度目の死を迎える。それが、この時代の弔いだった。
是永は、その最後の数分に立ち会う係だ。昨日は、孫に三十年ぶりに想起された老人を看取った。一昨日は、誰も来ないまま消えた少女がいた。彼は毎回、消える者の名を正しく呼ぶことだけを、自分の矜持にしていた。名を呼べば、その死者は、少なくとも一度は思い出されたことになるからだ。
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