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孤独な心臓 — Epoch SF短編小説の挿絵
SFバイオテクノロジー・遺伝子・身体拡張

孤独な心臓

桐島遼は、今朝も鏡に向かった。


新宿第三層の官舎は、どの部屋も似たような光の角度で朝を迎える。地下五十メートル。人工光がそれなりに太陽を模している。けれどハルには、この光がいつまでも「本物に似た何か」にしか見えなかった。


右の側頭部に、また一本増えていた。


白髪だ。


指先でそれを確認するたびに、ハルは妙な充実感を覚える。自分でも説明のつかない感覚だった。たとえるなら、日記に一行書き足したときの、ささやかな達成感に近い。


「桐島さん、今日も早いですね」


GENE-ARK局の廊下で同僚の村瀬が声をかけてきた。三十代前半に見える顔。だが彼がイモータル・コードの施術を受けたのは、二〇五一年の義務化よりも前、二〇四七年の先行試験グループだったと記録にある。実年齢は六十二歳だ。


「記録係は早起きが仕事ですから」


ハルは答えながら、村瀬の顔を横目で確認した。昨日と同じ輪郭。先月と同じ目の細さ。おそらく十年前の写真と並べても、誰も気づかないだろう。

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